劇場版「モノノ怪 唐傘」を見てきたので感想を書いてみます。
まずは言わせてくれ!まさに令和版・モノノ怪って感じで最高だった!!
アート作品のような独特の表現に、最近流行りのぐるぐる動くアクションシーンがプラスされ、薬売りさんのアクションシーンに私の中のオーディエンスが大盛り上がりでした。
エンドロールで視点を回転させるところとか、ちょいちょい初期「化猫」とのつながりを感じたのも良き。アニメシリーズを知らない人でも楽しめる作りにしてたのも、バランス良くて素晴らしいと思いました。
私は初代・化猫のときからの「モノノ怪」ファンですが、今回の感想はパンフレットとノベライズは未読、視聴回数1回の状態で書いています。
見落としや勘違いもあるかと思いますが、どうかご勘弁ください。
最初に紹介!モノノ怪シリーズって何作品あるの?
単発映画としても十分に楽しめる「モノノ怪 唐傘」ですが、じつは「モノノ怪」にはアニメシリーズが存在します。
- 「怪 〜ayakashi〜」(2006年)のなかで放送された「化猫」(第9話〜第11話)
- 「モノノ怪」(2007年)全12話
2006年の化猫が話題となり、単独のアニメ作品として「モノノ怪」が作られたと記憶しています。
「モノノ怪」はオムニバス形式で、化猫(初代)、座敷童、海坊主、のっぺらぼう、鵺、新・化猫の5つの話が展開されます。どの話も独立しているので、どれから見ても良いのですが、入口としては初代の化猫が一番わかりやすいかも。
あと、映画版の薬売りとアニメ版の薬売りは別個体の設定らしいですね。
退魔の剣が64体あるって聞いた瞬間に「ははぁ、モデルは六十四卦ですな」と考えたオタクな私ですが、SNS見てると当たりっぽいですね。映画版が“坤”でアニメ版が“離”だそうです。
映画版の薬売りに比べると、アニメ版はビジュアルも動きもやや地味です。ただ、作品としてのクオリティの高さは同レベルなので、映画で興味を持った方はぜひ!ほんと傑作なので!!
では、ここから感想を書いていきます。
注意:ネタバレがっつり含みます!
「唐傘」の三様は「のっぺらぼう」並に難解だったと思う
「モノノ怪」といえば、退魔の剣の開放条件である「形」「真」「理」の謎解きが醍醐味ですが、唐傘の三様って難解じゃなかったですか? 個人的には「のっぺらぼう」並に難しく感じました。
そもそも三様って以下ですよね。
- 形(かたち):モノノ怪の姿
- 真(まこと):モノノ怪が生まれた経緯
- 理(ことわり):モノノ怪になってしまうほどの情念(心のありさま)
で、私は唐傘の三様は以下のように捉えました。
- 形:唐傘
- 真:大奥の女中・北川は、大奥のなかで昇進を重ねるうちに、同期で親友だった女中の要領の悪さを疎むようになり、ついに彼女を切り捨ててしまった(クビを宣告した?)。以降、北川は気力を失い、心身を病み、最後に井戸へ身を投げた
- 理:「友を捨ててはいけなかった、あの子は私の“大切な人”だったのに」という後悔
「乾く」=「絶対に捨ててはいけないモノを捨ててしまった状態」ってことは演出からわかるのですが、化猫のようにわかりやすい恨みの対象が出てこないので、退魔の剣先輩のフィーバータイムで一瞬理解が遅れました。
今回のテーマは「私から私らしさを奪っていく構造への怒り」だと考えます。構造が原因だからか、登場人物が全員そこまで悪人ではなく、みんな各々の立場で苦しんでいるって設定が印象的でした。
「みんな悪い」はあったけど「みんなそこまで悪くない」ってのは、モノノ怪では初めてだったのではないでしょうか。
どストレートに描かれる「認められたい」という承認欲求
大奥といえば将軍を取り巻く愛憎劇のイメージですが、唐傘は大奥での女の出世をメインに据えていて、良い意味で裏切られました。
アサもカメも大奥に入るまでの背景はまったく描かれません。しかし、アサの台詞から「地元で期待される女の役割に、アサの器が見合っていなかった」ことが、カメの様子から「要領が悪すぎて祖母以外とはうまくやれてなかったっぽい」ことがなんとなく察せられます。
そんな対象的な二人の「新天地・大奥で認められたい」という承認欲求がどストレートに描かれていたあたり、時代設定は江戸なのに価値観は令和〜〜!
そして、実力を認められて出世していくアサと、やらかしまくって解雇の危機に陥るカメ。
二人の友情は変わっていないのに、使えるヤツ・使えないヤツの評価軸で勝手に周囲が二人を断絶させていく流れは、現代社会あるあるで見ていて辛くなりました。
大奥の構造の暗喩が怖い
さて、映画では大奥に入る儀式として「大切なものを井戸へ捨てること」「井戸の水を飲むこと」の2つが描かれます。
儀式は個を捨てて構造の一部になることを示しており、不味かった水に何も感じなくなるのは構造への迎合を意味している……のかな? 構造に染まると顔がなくなるシーンや、天子様の相手選びシーンなど、豪華さと不気味さを両立させる演出はさすがです。
モノノ怪って台詞には使わない情報を演出で伝えまくってくるのですが、テーマに沿った人間の業が画面の随所に込められていて、下手なホラー演出よりぞくっとするんですよね。
完全に個を失ってしまうと「乾く」、まだ個があれば「乾いていない」になるので、乾いていると発言していた天子様も個を失っているんでしょうね。水をがぶ飲みしても「乾いておりません」宣言できるフキ様が気になる。
三角の升で飲むことや、顔にアザがある双子が注いでることや、金髪ツダケンの立ち位置はよくわからんかったです!パンフ読めばわかる??
なぜアサはカメを捨てたのか
クライマックスにて、カメに暇を出したアサが唐傘の標的になります。北川から「(乾いてしまうから)カメを捨てるな」と警告されてたのになんでって思ったけど、あれはアサなりにカメを守ろうとしたんでしょうね。
思い返してみると、初手から大切な櫛を井戸へ捨てようとするカメをアサは止めています。カメって、激昂した麦谷に荷物を捨てられたり、錯乱した淡島に髪を切られたり、大切なものを奪われるシーンが多いんですよね。
アサに目が行きがちだけど、何気にカメのが乾きの危機に瀕している。
アサが乾かないためにはカメが必要だけど、大奥にいてはカメが乾いてしまうから、自分が乾く覚悟でカメを大奥から出すって意図なのでしょう。
アサカメ尊いやんけ。モノノ怪流のシスターフッドきたこれ。
これまでのアニメシリーズのモノノ怪って、家父長制のなかで女性が孤独に踏みにじられる話が多く、女性同士が手を取り合うシーンは描かれてこなかったと思います。化猫のように男性権力に屈した女性が加害に加担する話はあるけど……。
それもあって、クライマックスで井戸に落ちそうになったアサをカメが必死で引っ張り上げようとするシーンは泣きそうになりました。
カメにイライラしたらモノノ怪になる
他の人の感想を読んでいると、みんなカメにイライラしてますね。わかるー、私もイライラしたーっていうか、あれはもう意図的なキャラ設定ですよね。
まともな努力をせずに他人を羨むことは一人前。仕事は人任せで、そのくせ分不相応な夢は見るっつー可愛くて明るいだけではカバーしきれない欠点を持った女性です。
アサが大奥を滞りなく動かす有能キャラなら、カメは組織を停滞・遅延させることに全振りしたキャラのように思いました。
登場シーンのカメは、天真爛漫で可愛いらしく、魅力的に描かれています。緊張しているアサの手を握って一緒に大奥の敷居を跨ぐシーンなんて、恋愛アニメならBGMかけて演出されるレベル。
そこから容赦なく出てくるカメのダメっぷり。親友の女中を次第に疎ましくなったという北川の心境を、カメで追体験させられる気分でした。
でも、カメの要領の悪さ、弱さ、自分の感情を隠せない浅はかさって、人間なら誰もが持っているものだと思うんですよね。愛すべき人間らしさと言い換えられるかも知れない。堂々と水を飲まずに捨てるところなんて、トラブルに見舞われながらも個を最後まで保っているカメの強かさが伝わってきます。
つまり、アサや上司の視点に立ってカメを見てイライラすることは、北川をモノノ怪にした構造に加担することになるわけです。「モノノ怪は人が作る」とテレビ版の薬売りさんが言っていましたが、まさかの視聴者参加型アニメ映画やんけ。
離別は断絶にあらず
ラストで、アサからもらったであろう櫛を光らせてカメは大奥を去っていきます。櫛がキラキラしてプ◯キュアの変身シーンかと思いました。
夢だった御祐筆の役目を果たすアサも、大奥を後にするカメも美しかったですね。
近年の日本社会は、若い女と年取った女、専業主婦とワーママ、子持ちと子なしなど、必死に属性で女性を分断しようとしているように感じます。
でも、実際はそんな単純な二項分類で対立している女性たちなんてほぼファンタジーです。年齢も職や子の有無も、どの属性も地続きになっていて、どの立場になっても男性優位の社会構造による抑圧はあります。
家庭に入る生き方が向く人もいれば、外で働くことが向く人もいるけれど、その2属性ってかなりシームレスだし、どっちに属してもそれなりにしんどいよねって意味です。
唐傘はそういった現代女性が受けている分断圧力を描きつつ、“効率化”のもとに個人を構造へ最適化させようとする社会へ疑問を投げかけた作品に思いました。
結局アサとカメは大奥の内外で別の道を生きることになります。これは離別と言えるかもしれませんが、北川たちのように構造の圧力で断絶されたわけではない、二人は繋いだ手を離していないと解釈できるEDです。エンドロールを見ながら清々しい気分になりました。満足。
薬売りさんが大奥を去っていかなかったので、また同じ舞台で続きがありそうです。ツダケンさんのキャラの謎を早く知りたいわー。期待して待ちます!